オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その10.(職場内コミュニケーションの大切さ)

2010年11月01日

職場のコミュニケーション障害

 介護現場における根本的な課題の一つは、職員間および職場全体のコミュニケーション障害にあるといっても過言ではない。これは、根の深い問題であり、どうしても解決すべき課題である。なぜならば、この問題の解決なしには、職員の本当の悩みは組織内では出てこない。また、その悩みが組織内のことであれば、余計に放置される可能性が高くなるのである。

 最近、こんな傾向にお気づきだろうか。今までは、非常勤(パート)のケアワーカーは、募集をするとそれなりに集まってくれるので、辞めて行く者との交換が可能であった。しかしながら、ここ数年で状況が急変してきたという。特に市街地から離れた通勤にも不便な施設では、新しい職員の募集が困難になり始めているという。常勤職員と非常勤職員の比率は、当然の傾向であるが非常勤が多くなってきている。介護報酬の問題や、施設経営の課題が山積みの中で、この選択は当然のことであったはずだ。また人材紹介派遣業者が、ケアワーカーやヘルパーなど介護職の紹介派遣に進出して、介護事業者への募集の効率化と職員レベルの一定化を推進している。何も考えずに、その場の効率化という観点のみで活用を図った場合、介護現場に奇妙な環境が生まれ、その中で必死に戦う職員の姿が見えるのである。

能力のある職員ほど陥りやすい

こんな事例がある。
特別養護老人ホームの職員として働くAさんは、この職場で7年目を向かえる。数年前から専門学校にも通学して上位資格も取得、新たにフロアー主任を任された。これまでは、上司の指示に従って、自分の担当する仕事をこなすことで充実していた。また当時の上司は面倒見も良く、前向きに取組んでいるAさんには特に期待をし、そのグループ内でOJT(職場内教育)を組む場合は、必ず、Aさんを先輩職員の代表として任命をしてくれた。当然、Aさんもその期待に応え、若い職員たちへの指導に十分な能力を発揮して、その指導方法や内容は大変評判の良いものであった。Aさん自身も今回の任命は、嬉しいばかりではなく、さらにやる気を出させるものであった。 このような優秀な職員に対して施設として、より能力を発揮して欲しいと考えるのは当たり前のことである。Aさんのフロアー主任就任は、誰が考えても今後への大きな期待となっていた。 しかしながらその数ヵ月後、Aさんは突如、辞表を出したのである。果たして、Aさんに何が起こったのであろうか。施設の経営者としては、何が不満なのか理解できない。任命当時の本人は、大変喜び期待に応えられるように頑張りたいと話していたという。

直接的な原因は、Aさんの部下となる職員は、二人を除いて全てが非常勤の職員(パート・派遣)という構成であったことである。この施設で新人から中堅までたたき上げてきたAさんにとって、この施設の運営理念は大切なものであり、その理念が利用者への質の高いケアを実現してきたという考え方にたっているのだ。非常勤の職員にとっては、そのAさんの熱意がストレスであった。逆にAさんにとっても施設の理念をなかなか理解できない職員はストレスであった。そして、最悪な状況はお互いがそのストレスと感じていることを胸の中にしまっていたことである。しまったというよりは、現場の環境がグループの話し合いの場を奪い、そして個々の発言意欲を失わせてしまったのである。Aさんは、今まで自分が教えられたとおりに丁寧な指導をしていたという。その点においては、誰もが認めるところである。しかしながら、指導することは一方的な行為になりがちで、時として、人が行動するのに重要な『自己決定』のための意思疎通を忘れてしまう。「自分の理念が理解されていれば、このように動けるはずだ!」という思いと、「意図したこととは別の方向に動かれてしまった!」という現実とのギャップに苦しむこととなる。できる人ほどこのようにはまり込んでいく傾向にある。

育てた職員をいかに守るか

 では、何が必要であったのか。どうすればAさんは辞めずに済んだのか。非常勤職員を雇用しないということで解決するのか。決してそうではない。ここで必要だったものは、優秀な人材を確保するためのこころの健康づくり体制の構築と、それに付随した変化する雇用体制にも対処しうるマネジャー職の具体的コミュニケーションスキルアップであったはずだ。

 悩んでしまうことは、だれにでもあることだ。ましてや優秀な職員であればあるほど、悩みは尽きないのである。そんな状態を如何に早く察知して対処させることができるかが、育て上げてきた優秀な職員を守る最も有効な手法である。そのためには、管理職クラスの正しい理解のための研修と定期的なフォローアップが必要となる。ただし、いたずらにカウンセリング手法を学んで、職員とのコミュニケーションを図ろうとしても成果は期待できない。また、ただ単に相談室や相談員を配置しても誰も利用しない。それは、それらの目的とルールが不明確であるからである。同様に、目的のあいまいなスキル訓練や研修は、正直なところ無駄である。その研修が組織としてどのような意味があるのか、目的とゴールを明確にすることで、研修自体が効果的なものとなる。組織にその環境ができれば、研修を受けてきた優秀な職員たちは、研修の成果を活かせる環境を得て、さらにスキルアップする。

「あの時もっと早く、ストレスや悩みに対処する全体的な仕組みがあったら良かったのに・・・、当時は辞めることでしか、こころの整理ができなかった...」と、後々の機会でAさんはカウンセラーに語った。

(監修:アイエムエフ研究所)