オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その11.(職場内コミュニケーションを向上させる)

2010年12月10日
過去のコラムで「お茶とお菓子」を通じてご利用者と心を通わせた例をご紹介したが、今回は 少しの工夫で職場内(働く仲間)の風通しを良くした例を紹介する。

部下との間で悩む中間管理職は意外に多い

 Aさんは、4月から別の部署からBさんの上司としてやってきたベテランの職員であった。当初から非常勤職員と常勤職員の対応の差を感じており、様々な外部研修を積極的に取り入れ、仕事の進め方について個人が考えるようにするために努力をしていた。

しかしながら、それに応えてくれたのは、常勤職員のBさん唯一人。他の職員は研修を受けるものの、常にネガティブな態度で「自分たちには、自分たちなりのやり方がある・・・。」というのである。いつの間にか、Aさんはヒステリックになることや、"忙しい!"と徒党を組む一部の職員に対して動揺を隠せなくなっていったのである。

ある日のこと、Cさん(お茶を作る大きな農家で生まれ育った利用者)との出来事を機会に、利用者とのコミュニケーションをしっかりと図るBさんを例に挙げ、その他の職員に対して注意をした。

Aさん:「食事のときに出すお茶は、利用者の皆さんが楽しみにしておられるので、もっと気を使いなさい」。

その時の部下である職員たちの反応は、「だって、先日、熱すぎてやけどしたといわれたりしたので、これでも考えてやっているんです・・・」。という口調で、迷惑そうな顔をしてその場を離れてしまった。Aさんは、完全に無視をされた状態である。さらに、その後のカンファレンスでは、ヒヤリハットに絡めた意見として「本当に入れたてのお茶を提供することが、私たちのサービスとして正しいというのであれば、利用者のやけどは黙認するということでしょうか?」と突き上げられ、Aさんは動揺してしまい、何も言えずその場は大混乱してしまった。


美味しいお茶に学ぶコミュニケーション

このままでは、Aさんは確実に落ち込んでしまう。そこで、Aさんの心理的なケアをしながら、次のような試みをしてみた。

Bさんに、お茶の美味しさをCさんから勉強するように指示して、この時期にあったお茶の飲み方を次回の研修の中で取り入れることとした。Aさんは、部下のBさんと共に利用者のCさんから、温度・時間・お茶の種類からお茶の美味しい入れ方を教えていただき、研修に備える。

 研修当日、研修の題目は「利用者とのコミュニケーション」である。冒頭、講師から利用者とコミュニケーションのうまく取れているBさんを例に出して、その後のBさんの仕事内容がいかに変化しているか検証した内容を紹介した。そして、講師交代、そこにはCさん(利用者本人)がBさんと前に出てきた。Cさんから教えていただいたお茶の葉にまつわる話、お茶の効能、そして温度・時間・お茶の種類から美味しい飲み方に至るまで、Bさんが30分程度で説明をした。説明が終わるちょうど良いタイミングで、Aさんが部下たちに自ら数種類のお茶を準備して、季節の和菓子と共に振舞った。

 一瞬静まり返ったその研修は、お茶の味と効能を十分に堪能する職員の満足そのものであった。Aさんが一生懸命準備したお茶は「玉露(60度で入れた後、保温)」、「通常の煎茶(80度で入れて保温)」、「煎茶のオンザロック(濃い目に入れて保温・目の前で氷の入ったグラスに注ぐ)」、「ほうじ茶3種類(熱湯で煮出して保温)・(煮出した後茶葉を取り除き冷まして)・(煮出した後冷まして茶葉をそのまま)」。ぬるめの玉露の甘さを楽しみ、熱めの煎茶の苦味と和菓子を味わい、暑い季節の冷たい煎茶で気分をリフレッシュ、そして、ほうじ茶で口の中をさっぱりとさせた。最後に、ほうじ茶の美味しいものと苦さが強くてまずいものを全員が経験して、顔を見合わせた。講師のBさんとCさんは、ニコニコしながら全員の表情を見ていた。


部下を育て守るためには上司の感性が必要不可欠

すかさず、Aさんは、「このお茶全てが今15分ほどで作ってきたものです。お湯さえ沸かしておけば、工夫次第で、私一人でもできました。これを教えてくれたのは、ここにいる講師のお二人です」。「みなさん、ごめんなさい。私は、できない理由も聞かずにただ押し付けていました。お茶の入れ方を教えていただいた時に気づきました」。「これからは、みなさんとなぜうまくいかないのか、利用者の方々に満足いただけない理由や施設内でできない原因は何か、もっと考えて行きたいと思います」と話した。

 Aさんは、これによって自分自身の考え方や行動、人柄まで部下にアピールすることに成功した。「今後はより理解してもらえるように、一緒にできない理由を考える」と宣言してくれた。 数週間後、Aさんから連絡が入り、非常勤の職員も、ようやく本音で話してくれるようになったとの報告があった。この本音を引き出すためには、このような工夫が大切であり、これもコミュニケーションスキルである。


(監修:アイエムエフ研究所)