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「介護現場のストレスケア」その12.(上司の対応がもたらす若手職員の悩み・不満)

2011年01月14日

最近、若い職員には積極性が欠けるというが・・・

 A施設長のモットーは、若い職員を厳しくかつ、大切に育てることである。この施設には、経験豊富な職員が多く、その先輩職員をリーダーとしたOJT(職場内教育)がしっかりと行われていた。カリキュラムが出来上がっており、しっかりとした研修が実施されていたにも関わらず、A施設長の悩みは、最近の若い職員は言われたことはどうにか取組むが、自分から積極的に取組むことをしないので先輩職員がイライラしていることだ。

 ストレスマネジメントのB講師はA施設長の依頼で職場を訪ねた。B講師が驚いたことは、若い職員たちが業務中とても静かなのだ。打合せやヒアリングで自分の意見を発言しないだけではなく、ご利用者に対する声かけも無駄口は一切なく、まるで彼らが業務用のロボットに見えるほど話す言葉が極端に少ないのだ。当初は、休憩時間やオフタイムにはかなりにぎやかな若者が、なぜこのように黙ってしまうのか理解できなかったが、勝手な憶測からではなく、確実な答えを出すのには、それほどの時間は要らなかった。


経験豊富な先輩職員、あなたの下で部下は苦しんでいませんか

 早速、ストレスへの取組を始める前のアンケート調査と説明を行った。このアンケートは、無記名で施設側には一切内容を提示しないものなので、職員の皆さんは、ほぼ100%正直に答えてくれる。具体的な内容を書いてもらうと、このような訴えがあった。若い職員のSさんによるとこの施設では、しっかりしたカリキュラムでOJT(職場内教育)が受けられるので、当初は、基本的なことが良く理解できて自信が持てた。しかし、実際に担当を持ち、利用者と接しているとさまざまな疑問が出てきたという。当然、先輩職員とペアで利用者のケアに入っているので、質問することもできたが「いつもOJTで実際にやっているところを見ているのだから、それを積極的に習得する努力が必要だ」と答えは決まっている。

サービス担当者会議の席上で、担当することになった利用者のCさんの計画書を手渡された際、過去の日報にも目を通していた若手職員のDさんは、3年間、Cさんへの課題が解決されず「難聴のためコミュニケーション障害によるトラブルが多い」と毎日のように記載されていることを指摘した上で、具体的な解決方法を教えて欲しいと発言した。さらに、できればST(言語聴覚士)に相談して、本格的な対策を立ててみたいと進言した。その時の先輩職員の答えは「いつもOJTで実際にやっているところを見ているのだから、それを積極的に習得するために自分で考え、行動しなければだめだ。何でも人に聞くことが良いのではない」という具合だった。

先輩職員から見ると、若い職員は何でも他人が教えてくれるものと勘違いをしているように映る。若い職員から見ると自分の意見が正しいときにも、まるで質問したことが悪いことのように受け容れてもらえないと考え込んでしまう。


コミュニケーションが噛み合わずお互いがっくり・・・

 若い職員(部下)に対して、イライラする上司である先輩社員と、意見を受け容れてくれない上司(先輩職員)にイライラする部下(若い職員)。お互いの意思疎通が上手くなされていない状態だ。部下から見れば、自分の意見を積極的に出しても、それがまともに聞き入れてもらえないとなれば、それ以上は、先輩に意見することになるので黙ってしまう。そこで積極性が無いと嘆く前に、上司からのコミュニケーションの取り方を考えてみては如何なものだろうか。「いつもOJTで実際にやっているところを見ているのだから、それを積極的に習得するために自分で考え、行動しなければだめだ。何でも人に聞くのではなく、良く見て行動しろ」などのアドバイスは役に立たない。「先輩のやるところを見て・・・」や「もっと自分で考えろ・・・」では、部下からすればその姿を見ていて、実際にやってみると見ていたイメージと異なり、何かが違うことへの解決につながらないのである。そこには、部下を育てるための、その場に合わせた具体的なアドバイスが必要である。「どの場面で、何が違って見えるのか。実際やってみると何がどのようにわからないのか」具体的に聞いてあげる姿勢が必要である。

 また、上司からすれば、部下に意見されて今までの仕事を否定されたように感じることや、「今、忙しい」と言われて部下に命令を拒否されたりすると、イライラや不満が募る。これも、コミュニケーションがかみ合っていないために起こる弊害である。上司から進んで言葉を選んで投げかけること、「忙しいところ悪いけれど・・・」や「いつも忙しいところ丁寧にありがとう・・・」「君の頑張りはきちんと見ているよ・・・」など、ねぎらいの言葉から入ってみることも必要だろう。

 接遇のスキルは決してご利用者のためだけにあるのではなく、職場内で意識して用いることは、コミュニケーションを向上させる。ものを頼むのに一方的な命令でなく「申し訳ないが」「今、少し時間大丈夫?」という接遇の常識的な配慮、達成後には「ありがとう」、仕事終わりには「心のこもったお疲れ様」はコミュニケーションの大切な助けとなる。

 野球のピッチャーに例えれば、ストライクを投げれば良いというものでない。真ん中でも剛速球では、初心者のキャッチャーでは捕ることができない。捕りやすい球を(場合によっては下手投げで)投げて、はじめて受けとれることも多いのである。

(監修:アイエムエフ研究所)