オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その15.(事例検討会を上手に活用する)

2011年04月12日

管理職にもストレスが

 専門家が介護現場でのストレス対処について、現場の方からの相談を受けると、そこにはスタッフ以上に疲れた管理職がいる。見たところ疲れた顔はしていない(できない)が、今までがんばり過ぎた様子が伺える。このような場合、伸びきって戻らないような状態になる前に対処することは、本人のためにも是非必要である。話を聞いてみると、本人の悩みや不安とするところが、経営者やスタッフへの苦情として表出している。利用者の日々の状況からクレーム、そしてスタッフの悩みの解決まで、ありとあらゆる情報が頭のなかで混乱を招いている状態なのだろう。ゆっくり話を聞いた後に、現場での事例検討会の有無を確認すると、当然のように「実施している」という回答が返ってくる。しかし、管理職としてそれをうまく活用しているかと質問すると、自信なさそうに「まあ、まあ」という回答になる。なぜ、「まあ、まあ」なのか。「当然、活用しています!」と明確に言えない理由はどこにあるのだろうか。実は、こんなところに、管理職のストレス対処と介護現場全体におけるストレスマネジメントのツボが隠れているのである。

本に書いてあるようには......

 ある管理職の話である。「『コミュニケーションスキル』『カンファレンスの活性化』などが必要なことは理解しているが、本に書いてあるようにはうまくいかないのが現実だ......」。事業所の方針の伝達、現場のスタッフからの苦情や報告の集約と利用者への対処、そして事業所への報告。このように、すべて間に立って意志伝達機能を担っているのが管理職の役割なので、うまくいかないことが意外に多い。経営者側から見て、管理職がこのような状況にあることは把握しているが、彼らにしっかりしてもらわなければ困ることも、また一方で事実である。

 では、このように重要な伝達機能を担うために、どのような準備をしているか。人によっては、自らコミュニケーショントレーニングを受講したり、書籍を読んで独学する人もいるだろう。とはいえ、重要な伝達機能を担うにもかかわらず、ほとんどの管理職がそのトレーニングを受けられない状況やモチベーションに欠けるという状況にあるという。また、それを補うために、コンサルタントや講師を招いて研修を行い、事例検討会に同席を頼むこともある。それでも、事例に対する対処療法的な回答を一方的に示されることに慣れている現場では、自分たちの感じたことを表現できず、フラストレーションを持ったまま、事例検討会を終了して現場に戻るのである。それでは誤った情報を伝達するばかりではなく、正しい情報を見極める力さえ奪ってしまう可能性が生じる。また、たとえ真実を正しく伝えたつもりでも、誤解を招くこともしばしば起きてしまう。これでは管理職はもちろんのこと、周囲のスタッフのストレスが増幅するだけである。対策を講じなければ、管理職の精神的な負担もさることながら、その管理者のグループに属するスタッフはたまったものではない。

苦手意識を持つ職員も多い

 事例検討会では本来、スタッフの工夫や不安、悩みが集約されて、一人で悩んでいたのがうそのように解消されることも少なくないのである。しかしながら、そのようにうまく機能していない例も散見される。事例検討会で重要なことは何かと尋ねると、必ず帰ってくる答えは、現場で生活を支えながら利用者の状態を観察しているスタッフの声だという。そのスタッフの本当の声を引き出すためにはどうしたらよいか尋ねると、日々の介護のなかで感性を活かして利用者を観察し、その事実を正確に事例検討会で伝えることであるという。さらに、自信を持って自分の意見を発表すること、と言われる。重要であることに違いないが、現場のスタッフとしては、いずれも抽象的でわかりづらい。どうしたら感性が活かせるのか、また、何を観察することが正しいのか、観察力は優れていても、周囲の人(管理者)と違う感性で観察してしまうと、そんなはずはないと意見を却下されることさえある。自信を持って意見を発表するには、どうしたらよいのか。利用者に寄り添うことは得意でも、事例検討会は苦手だと感じているスタッフは本当は多いのである。

スキルを学ぶ意味を理解する

 さて、経営者側の期待を背負い、さまざまなことを伝達しようと、コミュニケーションの大切さを感じながらがんばり続けて張りつめている管理職と、具体的な指示がないまま不安と葛藤しているスタッフが、事例検討会を活かすためにまたがんばる姿を想像してほしい。たぶん、ほとんどの場合が管理職やリーダーの一方的な伝達に終わっているのではないだろうか。少なくとも、現場のスタッフ同士が、利用者の情報を共有すること、そして全員が参加して検討することが、事例検討会である。どうすれば、この課題に応えられるのだろうか。

 このように考えると、ようやくそれぞれのレベル(役割)でのコミュニケーションスキルが必要であることが見えてくる。しかし、コミュニケーションスキルというと、さまざまなものがあり過ぎて、選択に迷ってしまう。また、選択した方法が介護現場に沿ったものであるかどうかも定かではない。そこで、スキルを考える前にコミュニケーションが果たす役割を理解してみると、選択肢が広がることに気づくことだろう。そこで専門家は、コミュニケーションの話をする際には、ストレスマネジメントの立場から「コミュニケーションと心の知能指数(EQ)の重要性」について説明することが多い。「なぜコミュニケーションスキルを身につけるか」という理論的なことを整理して、スキルを学ぶ意味を理解することが重要である。自分自身でどのように活用することができるのか考え、現場で自然に実践できる環境をつくるのである。(次回/次稿に続く)


(監修:アイエムエフ研究所)