オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その17.(職場の人間関係づくり1)

2011年06月15日

ストレスのもとになる職場の人間関係

 人間にとって最も大きなストレスの元といわれ、最近の介護現場のストレス要因に関する調査報告でも、ベスト3に入るのが「職場の人間関係」である。在宅介護サービスの現場を覗くと、その要因を解明するための手がかりが見えてくる。それを踏まえ、ちょっとした工夫とそれを活かすための管理者側の努力、何よりそれらを理解したうえでの組織的な研修・トレーニングの導入を行うという経営者側の覚悟が必要となってくるだろう。


立場は違っても利用者への思いは共通

 在宅サービス(特に訪問介護事業)の場合は、施設とは大きく違うところがある。それは、サービスの提供時、一人でケアにあたるため周囲からのタイムリーな支援が望めないこと、要するに、職場のコミュニケーション自体が希薄であるということになる。

 また、当然のことながら、現場の職員は介護行為または利用者に対する思いが強くなる傾向にある。その思い自体は必要なことであり、思いがない職員はこの現場にはいられなくなるかもしれない。「介護の現場に"ストレス"という言葉を持ち込むな!」と言う方々は、思いが必要だということを強調したいばかりに、そう表現するのかもしれない。

 現場の職員が直接利用者と接して抱く思いと、サービス提供責任者の立場で抱く思い、そして事業所の管理者やケアマネジャーとして抱く思いは、三者三様であるように見える。しかしながら、それぞれ別に話を聞いてみると、次元の違いはあれども利用者に対しての思いは共通していることに気がつくはずだ。それでも気づかない場合を想定して、具体的な事例からひとつのポイントを示してみよう。


クレーム対応検討会にみる各人の認識のズレ

ある訪問介護事業所における利用者Nさんの事例検討会での一場面である。別の居宅支援事業所からの紹介でNさんに訪問介護サービスを提供している。この検討会は、利用者の家族から担当のケアマネジャーへクレームがあり、そのケアマネジャーから事業所に申し入れがあったことを受け、開催されたものだ。

 家族からの要求は、「食事を中心とした支援と入浴の介護をお願いしているにもかかわらず、入浴させていない日がある。それと、もう少しベテランのヘルパーを回してほしい」ということである。

 それを聞いたケアマネジャーは、家族にお詫びをする中で、ヘルパーの業務怠慢や業務の質について言及し、確認のうえ早急に対処することを約束して帰った。その足で、当の訪問介護サービス事業所に立ち寄り、管理者に対して家族からのクレームの内容と要望を伝え、ベテランのヘルパーを回すように話した。管理者はサービス提供責任者を呼び、それらの話を説明してヘルパーに介護計画書どおりに業務遂行するように指示した。するとサービス提供責任者から、担当のヘルパーについて次のような返答があった。

 「利用者に対する何とかしてあげたい」という思いが強く、利用者への気配りも優れているので担当を替えることは望ましくない」

 さて、検討会に出席したヘルパー本人からは、こんな話が出た。「以前から、食事に関しては好き嫌いがあり、気に入らない食材であれば口にしない。そればかりか、手指のこわばりがあるため食事は介助が必要であるのに、計画書にはそのようなことは書いていない」。

 また、「入浴もとても疲れると訴えてくるために清拭だけにすることも多い」。さらに、このような話は何度もサービス提供責任者に話しているという。

 以上の話を聞いた責任者は、ヘルパーからの情報が遮断された原因がサービス提供責任者にあるとして、厳重な注意を与えてしまう。また、ヘルパーに対しても、ケアプランに基づいて作成された事業所の介護計画書をしっかりと理解してケアにあたるようにと指示をして、検討会を終了してしまったのである。


それぞれ感じたことなどをオープンにしてみよう

 ここで、人間関係をチェックしてみよう。

 まず「ヘルパー」は、報告を事業所に伝えていなかった「サービス提供責任者」に対して不満を持っている。「サービス提供責任者」は、交代しろと言われていたヘルパーをかばってあげたと思っているので、ヘルパーの不満には耳を貸さない。また、現場を仕切ることをまかされているにもかかわらず、ヘルパーからの情報を伝えなかったことがこのクレームの原因とされたことに不満を感じている。

 一方、「管理者」は外部事業所の「ケアマネジャー」からのクレームを何とか処理したいという不安が先行して、その場をうまくまとめようと必死である。「ケアマネジャー」も家族のクレームに対処しようと尽力しているが、「ヘルパー」に対する不信感を持っている。

 このようなそれぞれの考え方・捉え方の違いを修正しようとすることは、至難の業であるように見える。そのためまずは、この事例での「事実」は何であるのかということを明確にしてみる必要がある。その際のポイントは、それぞれの立場で見えるもの、感じるもの、考えるものを素直に書き出してみること。管理者は、ケアプランや介護計画書およびそれらを作成するための客観的な資料を簡単にまとめて、全員に公平に配布しておくことである。

 それぞれが見て考え感じた事実を検討会でオープンにしてみると、へルパーの立場での事実(現実)、サービス提供責任者の立場からの事実(現実)、ケアマネジャーの立場からの事実(現実)には、少しずつ差があることに気づくのである。また、担当しているヘルパーと、第三者的に参加しているヘルパーの中でも差が出る。当然のことながら、サービス提供責任者およびケアマネジャーについても同じことが言える。各人の立場の強い思いが、それぞれの現実についてさまざまな表現を導き出していることに全員が気づくことで、ようやく次の段階へ進めるのである。 (次回につづく)


(監修:アイエムエフ研究所)