オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その18.(職場の人間関係づくり2)

2011年07月14日

三者三様の認識 ヘルパーの気遣いは・・・

 前回は、ある訪問介護事業所の事例検討会を題材に、ヘルパー、サービス提供責任者と事業所責任者の三者の認識にどのようなズレが生じているか、ポイントを示してみた。この事例について、各人の立場における事実の整理をもとに次の段階へ進めてみよう。

利用者から近い順に並べて一つの表にまとめてみると、まず、「ヘルパー」の立場からの事実として次のことが挙げられる。

「利用者は以前(サービス提供開始時)から、食事に関して好き嫌いがあり、気に入らない食材であれば口にしない。また、手指のこわばりがあるため自分ではうまく食べることができないので食事は介助が必要であるように見える。そして、最近では、体重が減り、体力が低下してきているため入浴がとても疲れると訴えてくるので清拭だけにすることも多くなった」

それに対するヘルパーの思いは次の三つである。
①「できる限り嫌いな食材は使わずに、バランスの良いおいしい料理を作ってあげたい(そのためには利用者とのコミュニケーションをより密にして、嫌いな食材のチェックもしなければ・・・)」
②「手のこわばりが出ているので、自分で食べられない様子、そのために食事の量が減っているようなので食事の介助をしてあげたい」
③「入浴は体調が良くないのであれば、余り望ましくないのではなかと考える」
この3つの点が可能になれば、利用者はもう少し元気になるのではないかと気遣うのである。


サービス提供責任者は客観的かつ冷静に判断

 一方、サービス提供責任者は、ヘルパーの報告を聞いて何度か利用者宅に同行をしているので、事実を客観的に捉えているようである。
①「好き嫌いは食材というよりは調理方法にあるかもしれない(以前、インゲンの胡麻和えにはまったく手をつけなかったが、おひたしにするときれいに食べていた)。とりあえず様子を見よう」
②「食事の介助は手のこわばりを見ている限りは必要になってきているが、食事の介助については、本人や家族からの希望がないので経過を見ることにする」
③「入浴については、最近体重が減ってきたせいもあって余り望ましくない体調の変化が見られる」
以上のことから、かかりつけの医師の意見も聞きながら、もうしばらく様子を見ることが大切であると冷静に判断している。また、クレーム対応のことも含めケアプランの見直しに役立つ情報提供のためにも、ケアマネジャーと打合せをするべきであると切実に考えている。


クレーム処理に終始した責任者の対応の"落とし穴"

最後に責任者の立場では、この事実をどのようにとらえているのだろうか。
①「他の事業所のケアマネジャーがクレームをつけてきた」
②「サービス提供責任者はヘルパーからの報告を受けているにもかかわらず、上司である自分に報告をしていない」
③「とにかくクレームを早く処理しなければ、契約がなくなってしまう恐れもある」
このように、クレームの原因を見極めることはそっちのけで、責任追及への対応を必死に考えるのである。

この問題は、利用者の家族からのクレームをできる限り早く解決することが必要である。しかし、クレーム処理ばかりに気をとられて、肝心な職場内のコミュニケーション障害の手当てをすることを放置してしまうと、同様のクレームが再発することになる。さらに、現場のヘルパー、サービス提供責任者という大切な人材を失うことにもつながるのである。


現場で起きている事実は? 確認・整理が解決の第一歩

 ここまで整理をすると、見えてくるのは「各人の思いから派生する事実の見え方の差」である。異なる事実の見方をしているわけではなく、同じことを表現するのに立場や思いが違うだけなのである。また、その思いによって、利用者本人の要望が見えなくなってしまうことが多いこともしばしばである。

 こうした問題を解決するには、どのような方策を採ることが望ましいのか、誰もが頭を痛めている。そこで、現場での事実は何か、再度確認する必要がある。

 ただし、各人の立場での事実を否定しないという基本的なルールが肝心である。ヘルパーの見ている事実とサービス提供責任者の見ている事実は何が異なるのか。「利用者に好き嫌いがある」という大枠では、この事実は一致している。しかし、食材が嫌いなのか、調理方法が嫌いなのか細部が定かではない。

 次に、手のこわばりについては、ヘルパーもサービス提供責任者も、支援が必要であるほどの障害になっているという認識は一致している。しかし、本人や家族の意見は明確に聞いていない。入浴についても本人の様子を「疲れたと訴えてくる」や「望ましくない」という不明確な表現をしているので、再度確認する必要がある。

このように各人の立場での事実は、決して間違いではないものの、思いが先行することで少しずつ表現が異なってくる。また、あいまいな表現が含まれているために事実が全員に理解できない場合もある。

 これらを解決するためには、当然、事実確認とそれぞれの立場でできる対策および助言をひとつの表にしてまとめてみるということである。さらに、ケアマネジャーに協力を求めて、利用者本人と家族の要望を明確にすること。そして、その事実をもとに何が必要であるか、どのような事態に備えなければならないのか「課題」を明確にすることで、具体的な結果(サービス内容の見直しなど)が得られる。この繰り返しが、職員間のコミュニケーション障害を取り除く、ひとつの方法なのである。

 事業所の責任者として大切なことは、クレームの解決だけではなく、介護現場を明るく楽しい職場にするという観点でストレスマネジメントを活用すること、そのために日ごろから冷静に介護職の立場での事実とその思いを整理することである。また職員は、各人が協力をして自分の立場での事実を整理し、オープンにする。その各人の立場での事実を冷静に受け止め、整理することによって真実が見えてくる。そうなれば職場のストレス原因も除去することができる。仮にすぐに完全な除去ができなくても、段階を経て軽減できるのである。

このような取り組みをすることは責任者としての役割であり、この取り組みをより円滑に進めるために各々がコミュニケーショントレーニングを積んでいける環境づくりも、責任者の役割である。


(監修:アイエムエフ研究センター)