オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その19.(職場の人間関係づくり3)

2011年08月10日

施設のメリットがデメリットに

 前回の事例から訪問介護事業所の場合、基本的にはヘルパー、サービス提供責任者、事業所の責任者という三者三様の立場があり、それぞれの視点から判断する現象は明確に相違する。また、すべての職員が同一の現場で働くことはないので、事例検討を行う際、進行役に一定の配慮さえあれば、個々の事例を素直に理解し、相互に支援できることがわかった。

 一方、特養・老健・デイサービスなどの事業では、ひとつの箱の中で他の職員とともに集団で仕事をするという特性から、利用者に対する認識の違いや、職員間のコミュニケーション不足や障害が起こる可能性は低いものと考えられてきた。しかし、やはり三者三様に、現場で起こる現象の捉え方には相違するところが多く見られるのである。しかも、同一の現場で、多くの職員が仕事をしているため、それぞれの捉え方の差が理解できない状況に陥る可能性が高い。そのために事例検討会では、進行役の一定の配慮だけでは、相互理解と支援に至らない場合が多い。知らないうちに職員間に「自分の感じていること」は、「他の職員が当然感じていること」という大きなズレが生じるのである。

 この環境から、不満と不安、怒りと嫌悪感、そして葛藤に押しつぶされ、有能な職員、責任者や専門職の士気は下がり、重要な人と人の対話・情報の共有とは名ばかりのものとなっていく。そして、そこには人間関係という大きな「ストレス」が発生し、職場を後にする職員は少なくない。このように、「ひとつの箱の中での集団作業」という施設のメリットが、実はデメリットに変化してしまうのである。外で一人になることで気分転換が図りやすい訪問介護に比べ、施設では一人になれる機会が少ない。今後は、施設においても、職場環境を整備する上で、職員間のコミュニケーションに関する工夫と、それを活かすための管理者側の努力、何よりそれらを理解したうえでの組織的な仕組みと外部機関との連携が必要となる。


ある施設におけるカンファレンスの一場面

 さて、具体的な事例として、特別養護老人ホームに併設されているデイサービスでのカンファレンスの一場面を見てみよう。まず、ケアマネジャーから、この一年間の経過や現状について報告された。「利用者のAさんは、1年ほど前から当施設を利用している。自力歩行が困難となり、最近では車椅子での移動となっている。その影響もあり、食欲がなく体重も3キロほど減った。また担当の職員Bさんによれば、食事の際にむせるようになってきたことも気になっている。本日は、「今後の対応について検討する」という内容だ。

 早速、施設長から「Aさんの車椅子での移動の経緯は報告を受けているが、食事の際にむせ込みが気になるという報告は聞いていない。報告書を書いて提出するように・・・。」という具合に担当の職員を叱った。

 次に、看護師より嚥下障害についての説明があり、次回のサービス提供時前に嚥下障害についてアセスメントを実施するとの提案があった。ケアマネジャーからは、家族に対してデイサービス利用中の様子を定期的に伝えているので、今回の様子も伝えることが報告され、加えて利用者のデイサービス内でのその他の情報を職員に出すよう求めた。職員Cさんからは、朝の利用者の様子(いつもにこやかに挨拶をする)、昼間の様子(食事以外ではにこやかだが、お茶を飲む際にはやはりむせることが多い)、食事以外のレクリエーション・排泄・入浴時の様子(歩行できなくなってきたことを寂しそうに話すが、特に変化はない)などが報告された。

 その他の職員からは、誰とでも仲良く話をしている様子などが報告された。最後に今後の対応について、自宅における食事の様子の聞き取りと家族への説明、見守りの強化という結論で終わった。


たった一言で事実が埋もれる環境に

 このカンファレンスを振り返ると、まず、施設長の一言で始まるが、職員の気持ちは引き締まったかに思えるものの、この後、職員の利用者Aさんの現象に対する個々の捉え方については、深く突っ込んだ話が出てこない。全員がAさんの最近の様子を「歩行困難・車椅子での移動・体重3キロ減・むせこみ」という言葉通りの現象を何も言わずに事実と思い込んでいる。

 この時点で、現場で起こっている肝心な事実(真実)が見えなくなってしまう。ここには、数十人参加しているので、誰か一人くらい、自分の見ている現象と報告とが異なっていることに気づいているはずである。職員の中でも、担当者以外あまり意見が出てこない。これは、不満と不安につながり、意見を聞いてもらえない嫌悪感にもつながってゆく。そして、いつしか職場に受け入れられていないと感じる職員が増えるのである。施設長の一言で、すべてが表に出てこない環境となってしまった。

 気づいたことを表現することは、すばらしいことであり、さらに、それを人に正確に伝えることは社会にとって必要不可欠なことである。情報の共有化を叫ぶならば、この基本的な環境(コミュニケーションの取れる環境)を作り上げることである。


それぞれの立場で話し合い視点を見直す場づくりを

 ここで、進行役の配慮が必要となる。施設系に所属する職員は、カンファレンスの報告やそのための話し合いは、大変すばらしい。しかし、そのほとんどが、施設長をはじめとした報告を聞く側が満足するための内容であり、事実の確認に欠けることが多い。カンファレンスにおいては、討議される内容に正誤はなく、自分たちの見ている現象をどのように考えているか、立場が違うとどのように考えられているのか、そして真実は何か(利用者の本当のニーズ、さまざまな現象の原因)をそれぞれの立場で意見を出し、聞いて、自分たちの視点を少し見直すことである。

 看護師からの提案は、専門職として当然だが、コミュニケーションを図るという観点であれば、今回報告されている現象を専門的に評価する前に、担当の職員が何度も見かけている「むせこみ」の様子を簡便に嚥下障害の程度の評価として一覧表を見せながら、どの程度の様子であったか聞いてみるといった工夫が必要である。その工夫が、職員の嚥下に関する認識を高め、いつ、どのようなときに、どのような状況になるか、明確な報告につながる。次に、職員全体にその認識が浸透することで、全体の環境を見渡すことができる職員が現れ、今までにない視点で、利用者の普段の生活について家族と話ができるはずである。(次回につづく)


(監修:アイエムエフ研究所)