オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その24.(研修内容を活かす仕組み)

2012年01月09日

多額の研修費を費やしても、なぜ悪循環は改善しないのか

 前回までは、スタッフの適切な仕事を引き出していく上での留意点やストレス及びそのマネジメントについて概論的に解説をしてきた。今回からは現場での事例を取り上げながら、もう少し詳しくこれらの点について考えていくことにする。
今回の事例は、適切な仕事を引き出すためのスタッフ教育について取り上げてみよう。


<事例>

 A事業者は複数のデイサービスや居宅介護支援サービスを実施している事業所で、管理者と常勤および非常勤を含め30名を超えるスタッフが勤務している。A事業所の給与水準や勤務体系は、地域の中でも平均より多少好条件であるにもかかわらず、毎年2~3割程度のスタッフがストレスや健康を理由に辞めていく。残って懸命に働くスタッフは、その負担を背負い、現場レベルでは重大事故には至らないものでもスタッフのミスや利用者とのトラブル、スタッフ間のトラブルが後を絶たないのが実態である。また、求人しても思うように補充できないことなども影響し、悪循環が生じており事業所運営上の大きな問題と感じられるようになっていた。 その対策のために現場のスタッフの教育・研修には力を入れており、毎年一定額の研修費を充て、外部機関への研修派遣や外部からの講師招聘など介護技術やヒューマン・サービス、人間関係、精神健康などに関する研修会を全スタッフ対象に行ってきた。内容に関しては参加したスタッフからはおおむね好評を得ている様子ではあるが上記のような問題状況には変化が見られない。A事業所としては、これ以上の費用をかけるわけにはいかないが放置できる状況ではなく、他の対策を考える必要が生じている。


研修の効果は目標に達しているか

 現在、ほとんどの事業所では事業所内研修の実施、あるいは外部研修機関にスタッフを派遣したりするなどの方法で研修を実施しているはずである。経営者・管理者の皆さんは、現在のこれら多くの研修について、どのような感想、意見を持っているだろうか。たとえば、その研修の目的としていたレベルがあるとすれば、どの程度効果を上げていると考えておられるだろうか。大きな効果を上げていると感じている方から、まあまあの効果があると感じる方、あるいは制度的に必要であると言われてやってはいるがほとんど効果は感じられないと言う方まで様々であろう。大きな効果をあげており目的は達成され問題は生じなくなった、あるいは大幅に減少したと言う方は、その研修や研修前後に行っている取り組みをぜひ継続していただきたい。しかし、多くの方はそうではないだろう。例えば上記の事例では研修をすることでミスやトラブルは減少しているであろうか。また、職員のストレス状況に軽減が見られるだろうか。事例を見る限りではその答えは「ノー」である。


研修で得た知識を現場に活かせる環境作り

 ここで事例を少し整理してみよう。受講者の多くが居眠りをするような退屈な研修の場合や受講者が過労からくる睡魔や理解不足などは、研修(の持ち方)自体の問題である。
事例の場合は、内容に関してはスタッフには好評であったということなので、スタッフは内容を一定理解していると考えられる。内容を理解しているスタッフが研修内容を自分の知識にしているにも関わらず問題が減らないと言うことは、実は"研修"そのものの問題ではなく"研修内容を活用する仕組み"の問題といえるのである。
我々は「知識がある→その通りに振舞う(考える)ことが出来る」と考えがちである。例えば「車椅子の移乗介助の際は必ず車椅子のステップをはねあげ、ストッパーをかける」ということを知っていればそのような場面になったら誰もが「車椅子のステップをはねあげ、ストッパーをかける」ものだと考える。もし、それをしないスタッフがいたら、そのスタッフの「怠惰」が原因であるというようになる。しかし、これでは以前本稿で紹介した「個人攻撃の罠」にはまってしまっている。そうではなく、研修内容を活かせる環境設定こそが重要なのだと考えていくことが必要である。それには次の2つのポイントが重要となる。

1.研修で得た「知識」を自らの職場に当てはめて、具体的なケースとして設定し、その設定に従って練習を繰り返す。

2.スタッフが「知識」の通りに出来るように必要に応じ、先輩によるモデル/模範を示したり、その知識の通り出来たときには、(出来て当たり前のことでも)「しっかり誉める」ことが大切である。出来たら誉めることで身についていくのである。

これを実際に続けていくことには確かに手間がかかるが、問題の解決には必要なことであり、この実践が研修を現場に活かせる環境作りには欠かせないのである。


(監修:アイエムエフ研究センター)