オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その25.(環境作りのポイント)

2012年02月05日

管理者の指示に反して減退する担当者の意欲

 前回は、スタッフへの研修が、実際の問題解決にあまり結びついていないケースについて考えた。その背景として、「知識がある」ことが、そのまま「その通りに振舞うこと」が出来ると、私たちは考えてしまいがちであるという点を指摘した。さらに、実際には研修内容を活かせる「環境設定」が重要であり、そのポイントとして、知識をできるだけ具体的な行動として定義し、その定義に従って練習を繰り返すこと、必要に応じて目印を配置すること、モデルを提示したりすること、そして、その知識の通り出来たときには同僚や上司が積極的にフィードバックをするなど、スタッフ本人が、得た知識を活かすことのできる環境作りにも、注意が向けられる必要があることを明確にした。今回は、この環境作りについて次の事例をもとに、具体的に考えていくことにする。


<事例>

 施設Bはユニット型の特別養護老人ホームである。このホームでは、利用者の半分以上が認知症を持っており、スタッフは利用者の示す認知症に関連する行動障害の対処に苦慮していた。そのような状況の中、3つのユニットでユニット内においてある共有物を自室に持ち込み、溜め込む(蒐集/しゅうしゅう)行動をする利用者が現れた。良い機会なので管理者が中心となりその対処にあたることになった。当初、各ユニットの担当者と管理者で、担当者会議を開いたが、対処方法等に関する情報は得られなかったために、とりあえずその行動障害に関して、時間、場所、蒐集した物、その量、蒐集しているときの利用者の様子、その他気づいた点などについてできるだけ詳細な記録を取ることを決め、1週間後の担当者会議からその内容をそれぞれ発表することになった。1週間後の会議では、3ユニットの内1ユニットからは、ある程度の記録が取れたと報告されたが、残りのユニットでは残念ながら、1〜2回分の記録しかとれなかったとの報告であった。各担当者によると、実際にはどのユニットにおいても、ほぼ毎日同様に行動障害があった様子だけが報告されていたために、管理者は「ユニット内の意識の向上をするように」指示を出した。しかし、翌週の会議においても同じ様子であったために管理者は、うまくいかないユニットの担当者に対し「やる気がないのか!」と叱りながら注意をして、再度記録を付けるように指示をした。この頃になるとうまくいっていないユニットの担当者はこの記録すること自体と記録する担当者になっていることに嫌気がさしてきている様子であった。


できないスタッフを責めるか、できたスタッフを褒めるか

 以上の事例について、皆さんはどこが問題だと思われるだろうか。様々なポイントを指摘できるかとは思うが最大の問題はやはりせっかく管理者を中心とした担当者会議まで開き、行動障害の対処をしようということになったのに、対処を考える際の基礎となるはずであった記録を、十分にとることができなかったという点だろう。では、その記録が十分にとられなかったことは、今回の事例の中のどの部分が問題なのだろう?  3ユニット中1ユニットではある程度できていたわけなので、管理者の言うとおり、他のユニットのスタッフや担当者が怠慢であることまたは、この問題に対する意識の問題なのであろうか。あらためて振り返ってみると、行動障害を詳細に記録することは、忙しい日常業務の中で実施させるには、かなり面倒な作業であると言えないだろうか?スタッフの多くは、ただでさえ日常の忙しい業務の中でさまざまな記録を付けることが求められている。今回の事例においては、さらにその上に、新たな記録を付けることが求められていた状況であり、この場合付けられなかったスタッフを責めるのではなく、むしろある程度付けることができたユニットのスタッフが褒められるべき状況だったと言えるだろう。ここで上の事例において「新たな記録を付ける」という行動について以下にまとめてみることにする。

①<記録を付ける前の状況>
・新しい記録を付ける指示
・忙しい
・他にも付けるべき記録がある
・たくさん記入する必要がある新しい記録用紙
・利用者が行動障害を示す
    ↓
②新たな記録を付ける
    ↓
③<記録を付けた後の状況>
・新しい記録に時間を使ったためもっと忙しくなる
・他にも付けるべき記録の時間が減る
・記録を付けたことは評価されない
・もしかしたら行動障害の改善に役に立つかもしれない
・でもその場では行動障害は変わらない


悪循環を回避するための「環境調整」のポイント

 こうして新たな行動をする前と後の状況を整理してみると、忙しい中で新たなを付けるという行動自体が、やりにくいことであるということがよくお分かりただけるだろう。記録を付けても直接は利用者の行動障害が改善するわけでもなく、しかも従来の仕事を行う時間がそれだけなくなってしまい、より忙しくなってしまう可能性もあるという悪循環が生じている。
それでは、このような状況の中で、どのように環境作りを進めれば良いのだろうか。まずは、「環境」が何をさしているのかということが重要である。上の図の①と③で示された枠の中には入っているポイントがすべて「環境」といわれるものである。従って、環境作りと一言でいっても様々なポイントがあるということになる。利用者の行動障害を簡単に排除することはできないとしても、例えば
・新しい記録用紙を時間のかかる記述ではなく該当する欄にチェックを入れる方式に工夫する
・他の仕事の配分を調整する
・新しい記録を付けたことが評価される仕組みを作る、ねぎらいの言葉を掛ける
などが、それらの課題に対して相対的に容易に取り組むことのできる環境調整の柱となることに気づいていただきたい。
 以上のような環境調整は今回のような記録に関する場面だけではなく前回コラムの「研修を現場で活かす」というような場面も含め、あらゆる場面で必要になる。


(監修:アイエムエフ研究センター)