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「介護現場のストレスケア」その42.(管理職としてのストレス8)

2013年07月08日

 前回は、新任のリーダー職が直面することが多い「部下との対立的な場面」の例をあげてみました。この事例では、新任のリーダーであるAさんは、自ら新人のCさんの指導をかぶってしまい、自分の仕事を増やしてしまいました。言い換えれば、リーダー職であるAさんは、部下から出た不満に対して、「それなら自分でやる」と自分でその仕事をかぶってしまうことでその問題の解決を図ってしまいました。この問題解決の方法では、リーダー職がいかに頑丈な身体をもって必死に頑張ったとしても、本当の解決にはなりません。また、実際にそのようにしてたくさんの仕事をかぶった結果、過労で健康を害してしまった人や、精神的にも追い込まれてしまった人、燃え尽きてしまった人などの例は枚挙に暇がありません。

 このようにマネジメント力を強化せずに献身的なリーダーに頼るだけでは大切な人材を失い、介護事業における人材・人員不足をさらに深刻な状況に追い込むことにつながるように思われます。


■自分で抱え込まないためには

 介護現場で見られる現象の代表格である「自分で抱え込むこと」について考えてみることから始めます。リーダー職(特に新任のリーダー職)にとって介護知識や技術の習熟とは対照的に、「対立的なコミュニケーションを上手にこなす(妥協点・共通点・解決策を探る)」というスキルは、介護現場はもちろんのこと資格試験や学校でも学ぶことの少ない新しいスキルであり、リーダー職にとって必要であるにもかかわらず十分に身についていないという問題点があります。

 また、介護現場で働く皆さんにとっては、他人に指示をして動いてもらうより、自分が直接やってしまう方が簡単で、確実だという思いもあるかもしれません。さらに、見逃してはいけないのが「教育スキル」と「他者のマネジメントスキル」ということです。新たな仕事を誰かに依頼する場合、その仕事は依頼された相手にとっては、意外にも新しいことであるかもしれません。その場合、単に「よろしく頼むよ!」というだけでは、依頼された方も戸惑ってしまうことでしょう。新しい仕事の場合、その仕事の目的ややり方を十分に教える(伝える)ことができて初めて依頼する側と依頼された側の共通理解が生まれ、依頼された側は安心してその新しい仕事に力を発揮できるという法則のようなものがあります。さらに、リーダー職(特に新任)は他者のマネジメントについても苦手(不安)であることが多いようです。そこで、すべてのマネジメントを100%こなすことを求めるのはなく、誰にどのくらいの仕事を任せているか、それぞれのスキル・レベルに見合っているか、不満な点はあるか(どこか)、などの基本的な重要事項を把握することから始めると自信が持てるようになります。

 ステップアップせずに放置すると、たとえ優秀なリーダーとなる素質を持ち合わせていたとしても、仕事を頼みやすい特定の人だけに仕事を振ってしまい、もともとは良好だった職員との関係が次第に悪くなり、そのほかの人からも不満が出るなどの負のスパイラルに陥ることが多くなります。さらに、マネジメント面でリーダー職に求められるのは「評価上手」になることです。評価といっても人事考査のことだけではありません。日常的にほめたり、フィードバックをしたりすることも評価の重要な部分なのです。以前も取り上げたポジティブフィードバック(できたところを誉める)などの基本的なスキルを、機会のあるごとに事業所全体で振り返ることも必要です。

 以上の「自分で抱え込む」原因を眺めてみると、実は「自分で抱え込む」のは抱え込む本人だけの問題ではないということが見えてきたでしょうか。そこには、「スキル」という言葉がたくさん出てきましたが、基本的に「スキル」は訓練や教育によって身につけることができるものです。そのスキルが身についていない人にリーダー職を任せているということになると、これはその管理者側にも大きな責任があるということになります。リーダー職(特に新任)への研修はこのような点からもその必要性が強調されます。管理者側としては、より効果的な研修のためにもリーダー職の育成を含めた日常の仕事全体を見渡し把握しておきたいものです。


■対立的コミュニケーションへの対処

 さて、「自分で抱え込む」原因について理解ができたところで、この内容を踏まえ「対立的」なコミュニケーション場面への対処について考えていくことにしましょう。

 前回とりあげた場面では、リーダー職であるAさんに、新人(Cさん)の指導を担当していたBさんから、Cさんへの指導係はこれ以上やりたくないという不満が寄せられていました。このような場面をあなたが見たとしたらどのような対処を指示できるかという問題ですが、いかがでしょう。まず、対立的な場面においては、以前解説をした基本的な「聞く姿勢」で上げたポイントが参考になるはずです。むしろ、対立的な時ほどていねいな聞く姿勢を持っていることが大切です。つまり、相手が言ったことをまずは否定せず受け止め(承認・許可するわけではない)、相手の話しを繰り返したり要約したりすることで、何よりも今相手が何を訴えているのか、何が不満なのかを十分に理解することから始めることです。その上で、相手が訴えたい問題や不満に思っていることについて考えられる解決策を少しずつ検討していくことが必要です。

 ここで注意が必要なのは解決策を出すことをあせらないということです。一般に、私たちには感情的なぶつかり合いを避けようとする働きがありますので、自分に対し不満がぶつけられるなど、感情的なこじれが生じるといつもより解決を急いでしまいがちです。その結果、多少時間をかけてでも問題を合理的に解決することよりも、多少自分が無理をしてでも解決を図ってしまう傾向があります。しかし、実は、相手の訴えや不満を一旦しっかり受け止めることができると、それだけでも感情的なこじれは小さくなる傾向があります。この意味からも一旦は話をしっかり聞くということは重要なことです。そして、相手が少し落ち着いた上で解決策を探っていくことになります。この段階では、最初にその人の訴え自体の受け入れの可否(この例では新人の担当を外すことの可否)や、それが望ましいかどうか、今後検討することだけでも明示するとよいでしょう。


(監修:アイエムエフ研究センター)