オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その54.(メンタルヘルスと周辺事情1)

2014年07月15日

 厚生労働省の「精神障害等に係る労災申請件数」を見ると、平成22年の85件から、24年173件、25年201件と残念ながら増加の一途をたどっています。
残念ながらこれを見ても、対岸の火事と思われる方が多いのではないかと思います。しかしながら、労働災害の事例の統計分析から導き出された「ハインリッヒの法則」に照らし合わせてみると、1件の重大事故の下には29件の軽傷事故が存在し、その下には300件の無傷災害が存在するとなっています。さらに日常、ヒヤリ・ハットの状態にまでいかないが(もしくは自覚しない)、実は非常に不安全な状態や行為となると、実は相当な潜在的件数になるはずです。

 つまり「うちには関係ない」と思っていても、実は災害の種はいつも潜んでいると考える方が理に適っているのです。介護・介助事故と同様に、「いつもやっていることだから」「今までも平気だったので」という不安全行為が、いつヒヤリ・ハットを飛び越え一気に重大災害になるかも知れません。「1:29:300」で言い表されている比率は、よく考えれば非常に高い確率で重大事故を招くことを示唆しています。いつやって来るか分からない災害を未然に防ぐには、不安全な状態や行為を認識し、ヒヤリ・ハットの段階で地道に対策を考え、実行(よい習慣として身につける)していくことが重要なことなのです。

 平成23年12月に、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を定めました。以後はこれに基づいて判断をすることになっています。それまでは、「心理的負荷による精神障害の労災認定」については、平成11年9月の労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(基発第544号)に基づいて、業務上であるかないかの判断を行っていましたが、認定に平均約8.6か月かかっている現実があること、さらに近年、精神障害の労災請求件数が大幅に増加している中で認定に関する対応の改善が求められていました。このため、審査の迅速化や効率化を図るための労災認定の在り方について新基準の策定がされたという経緯です。新しい認定基準に基づき判断されることとなり「心理的負荷による精神障害の業務上外に係る判断指針」は廃止されました。また、新たな判断基準を周知することにより、6ヵ月以内の決定を目指していくことになっています。このような背景もあり、介護・福祉業界の労災申請・認定は増加していることがうなずけます。

さて、以下はある労災認定事例です。
《某労働基準監督署が市内の介護施設の施設長だった20代の男性が自殺したことについて、
長時間労働などが原因として労働災害に認定した。》
 男性側の弁護士によると、男性は介護職場の経験が不十分だったにもかかわらず、役員の説得で施設長に就任。その後、月100時間に及ぶ時間外労働をする日が1年近く続いた。さらに市の監査で施設の多額の損失が明らかとなり、管理者としての責任に問われて不安や不眠が続き、関係者からの協力や支援を得られずにうつ病を発症し自殺した。その後男性の遺族から「過労死110番」に相談があり、労災を申請していたというものです。

 上記の事例を知っても対岸の火事ととらえてしまう傾向は、ひとつは「個人責任主義」という考え方の弊害です。働く人にとってストレスへの対応は、人間関係など個人だけの問題では解決できないことも多く個人の責任として片付けてしまうことは、管理者としてのマネジメント上はもちろんのこと、現在では使用者側の安全配慮義務として放置することは許されません。

 次に「施設長への任命」についてですが、「そんな若い人を施設長には任命しない(無理だ)」などの意見も当然聞かれます。しかしながら、「明日は我が身だ。有効求人倍率などでは現れないが、元来、都市部以外の地域では、(働き盛りの)働き手が不足している現状があり、経験を優先したくても資格などを考えると、若い人が管理者になりその部下はベテランパートという図式が出来上がってしまう」という訴えも聞こえます。若い層の管理者は、自分よりかなり年上の部下への対応に苦慮します。単なる技量不足として捉えることだけでは、何の解決にもならないはずです。そこには管理者育成の観点での教育とサポートが必要不可欠です(これも自分のところではできていると考える経営層が多いようですが、その割には問題が多いようです)。そして、長時間労働の問題ですが、この施設ばかりではなくすべての事業者の経営層の皆様が常に見ておくべきことは、時間外労働の推移や本人の行動の変化なのです。ひとりまたは一部の層の方だけに偏った過重な労働時間や責任は、さまざまな問題を引き起こす直接的な要因となります。気合だけでは解決できるはずがありません。経営、管理者が一体となって組織的に取り組む必要性がここにあるのです。


(監修:アイエムエフ研究センター)