オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その55.(メンタルヘルスと周辺事情2)

2014年08月08日

 前回のコラムでは、精神障害等の労災請求についての話題を取り上げましたが、申請件数の水面下に隠れている「どこにでもある種(たね)」を見落としたくないものです。メンタルヘルス面から説明をすれば、ストレス刺激に対して「精神面への表出」、「身体面への表出」、「行動面への表出」という反応が起こります。個人的に強いとか弱いではなく、現れ方が異なるだけです。労災は「精神面への表出」と言ってよいでしょう。これが行動面において暴力的な行動や言動にでると、虐待につながることがあります。

 日本では虐待事件の原因が個人の素行等に向き過ぎる傾向があります。事実、報道は個人責任と余罪の追及から始まり、事件を起こした当事者だけが犯罪者として隔離されることにより、それを排除した組織を含めて、何の根拠もない安心感を覚えて終結してしまうのが今までのありがちな経過です。さらに、本当に大切な再発防止策については、事業者から行政への報告と行政から事業者への注意喚起という程度で、「具体的な対策は大変難しい」というコメントと共に話が途切れてしまいがちです。

 もちろん、メンタルヘルスに関する対応策だけですべてが防止できるものではないのですが、「トップの意識が変わらなければ、どんな対策を導入しても、どんなにお金や時間をかけても何も変わらない」のです。

 平成18年4月1に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」ではその目的が第一条に以下の通り示されています。 「この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。」

 まさに、この法律は事業者に属する職員に対しての支援が必要であることを明確に示し、高齢者虐待を防止するために、国や行政、介護者(事業者の職員に至るまで)の「負担を軽減する支援の必要性」に言及しています。しかしながら、事件が大きく報道される割には、虐待についても労災と同様に結局のところ事業者側にとっては対岸の火事となっている側面を否定できません。

 単に「ストレス」を悪因として排除しよう。またはストレスによって不調など介護現場にとって不適切な行動をとりそうな職員を探し出そうということになっては、まったく意味がありません。なぜならば、職員の方々の行動は、その環境によって変化します。ですから、その変化を起こさせている組織的な原因をしっかりと究明し、合わせてその変化を緩衝する組織的な要因を明確にしてそれぞれの事業者(組織)に合わせた対策を講じることが、適切な組織的側面の対応です。さらに加えるならば、個人的側面や業務外の要因なども職員の方々は抱えているわけですから、その部分のサポートとして「自己理解(自分の状態や特徴に気付く)」やストレス対処の知識を習得する機会を作ることも重要な組織的な対応です。このような職場環境の整備をすることと同時に、皆様が最も活用をされている研修(専門分野の最新の知識や技術等の習得の機会)を定期的に設けることは大変有効な施策です。 これまでのコラムで再三にわたり説明をしております「個人責任主義」から脱却することが大切です。働く人にとってストレスへの対応は、職場の人間関係などを考えると個人だけの問題では解決できないことも多く、個人の能力、資質、性格の問題として片付けてしまうことは、組織として職員への安全配慮に欠けるだけではなく、その先にある事業者としての利用者への安全配慮義務を無視することになります。介護福祉業界として大切な人材を育成・支援しながら、組織運営上のリスクマネジメントの問題として再認識していただきたいと思います。


(監修:アイエムエフ研究センター)