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「介護現場のストレスケア」その56.(メンタルヘルスと周辺事情3)

2014年09月12日

 前回のコラムは虐待に見るメンタルヘルスということを解説しました。今回は法律や制度面からメンタルヘルス対策の国としての方向性を見ることにします。国の法律や制度の変遷を確認していただき、メンタルヘルス対策に関する国の施策が何を意図して変化してきているのかを確認しておくことは組織運営上、必要不可欠なことになるでしょう。

 介護保険制度が施行される半年前の平成11年9月に「心理的負荷による精神障害に係る業務上外の判断指針(平成21年4月改訂)」が厚生労働省から出されました。これは働く人(職員)が精神障害となった場合、その原因が業務による心理的負担なのか、業務以外の心理的負担なのか、それとも個体側の要因なのかということを判断するための指針を出したということす。その後、介護保険制度施行の数か月後(平成12年8月)に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が出されます。この指針で代表的な内容は4つのケア(セルフケア、ラインによるケア、産業保健スタッフによるケア、事業場外資源によるケア)です。ここでいうセルフケアは職員が自分でストレス対処をするという意味ではなく、事業所として職員にその機会を設けて教育することが本来の意味です。その後、平成16年10月には「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成21年3月改訂)」が出ました。翌年の平成17年11月には「労働安全衛生法改正」があり、特に長時間労働は脳・心臓疾患に関係していることから、長時間労働者への面接指導が義務化されました。平成18年3月には「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が出され、翌年の平成19年12月には「労働契約法」が制定され、「安全配慮義務」が明記されました。これにより使用者は労働者の安全配慮義務を負うことになりますので、これ以降は精神障害による労災認定に加えて、使用者が安全配慮義務に違反したとして訴訟となるケースも多くなってきたわけです。その後、平成21年の「心理的負荷による精神障害に係る業務上外の判断指針」の一部改正では、「ひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」の項目の心理的負荷判断が「強」となり、職場のいじめなどに関する労災認定が進むことになります。

 そして平成23年12月には「心理的負荷による精神障害の認定基準」が通知されました。これは平成21年4月に一部改正した「心理的負荷による精神障害に係る業務上外の判断指針」を廃止し、精神障害による労災認定の簡素化を目指したものです。それまでは、業務上外の心理的負荷や個体側の要因を複数名の精神科医による合議制で決定していたものを簡素化し、難しい案件のみ精神科医の判断を仰ぐことにして、その他は労基署職員が判断できるように具体的な事例を数多く表示しています。例えば、特別な出来事として「極度の長時間労働」と表示していたものが、認定基準では「月160時間程度の時間外労働」と明示しています。また、セクハラが原因で精神障害を発病したとして労災請求がなされた場合の心理的負荷の評価については、次の事項に留意するとしています。①セクハラ被害者は、「勤務を継続したい」とか、「セクハラ行為者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたい」との心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者の誘いを受け入れることがあるが、これらの事実がセクハラを受けたことを単純に否定する理由にはならない。②被害者は、被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが、この事実が、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならない。③被害者は、医療機関でもセクハラを受けたということをすぐに話せないこともあるが、初診時にセクハラの事実を申し立てていないことが、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならない。④行為者が上司であり被害者が部下である場合、行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等、行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得る。と被害者側保護の明確な立場をとっています。

 このようにメンタルヘルスに関する施策が変化・拡大してきた近年、「うちは雰囲気が良いので大丈夫」という具合に無施策の事業所は、結果として人材不足に悩むことに繋がりかねません。


(監修:アイエムエフ研究センター)