オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その58.(メンタルヘルスと周辺事情5)

2014年11月09日

  ~「現場の典型的な事例にみるリスク」~

 近年、介護施設やその他の介護事業所に勤務する職員の間で、特に精神疾患(うつ病など)の増加による労災などの問題が表面化しているということはこれまでのコラムで取り上げました。介護職特有のストレス要因としては「命にかかわる仕事への不安」「感情労働や共感疲労」「倫理的葛藤」などの他に、最近では欠勤者や離職者の増加とともに増える職員の労働時間、そして夜勤の回数の増加、勤務中の休息に関しては取得・環境ともに悪化など、さまざまな労働環境の悪化が報告されています。ある施設では少人数での夜勤が多く、夜中に徘徊する恐れのある認知症高齢者に備えて、職員は勤務中に一切の休息を取れないことや、夜勤は週1回(月4回)の割合だったが、最近では月7~8回に倍増しているというケースも珍しくありません。

 そのような環境下にある介護施設での事例です。8年間勤務していた30歳代の介護職の女性Aさんは、同僚の欠勤に伴い夜勤や残業が増加し、3カ月間の時間外労働は月平均107時間となっていました。疲労困憊で迎えたある日の午後、Aさんが担当する利用者がトイレでの転倒事故のため救急車で搬送されました。命に別状はありませんでしたが、事故報告の中でAさんは集中力に欠けていた自分の責任であると報告したところ、上司と周囲の職員は当然とばかりにその女性に責任を取らせ、家族への説明やその後の病院対応などすべての業務をAさん一人で処理させたというのです。当然、日常業務の他にその業務が重なるために、Aさんは心身ともにより一層厳しい状況となりました。その後、1週間が経過し利用者は無事施設に戻ってきましたが、Aさんは朝ベッドから起き上がれず突発的に欠勤してしまいました。そして、近くの精神科クリニックで診察を受けたところ、抑うつ状態で2カ月の休職が必要との診断でした。その2カ月後、一度は復帰したものの休職していたことで周囲に迷惑がかかり、当時の状況以上に周囲からの風当たりは強くなっていたため何とか挽回しようと頑張るのですが、結果として重症化してしまい復職後1ヶ月を経過した時点で再度休職を申し入れることとなりました。すると上司からは「1週間以内に今後どうするか、具体的なことを考えてきなさい。つい先日まで2カ月の休職をしていた君が、再度2カ月休んでしまえば、周囲に今まで以上の迷惑がかかるので、復帰した時に周囲が君のことを受け入れると思うか」と、事実上の解雇を通告される形となりました。

  さて、この事例は危険な事例の典型であり、施設長も気づかないうちに現場ではこのような事態となっている可能性があります。この事例をもとにどのような対応をすべきなのか、そもそもどのような対策を導入すべきなのか考えてみましょう。
 まず、平成24年12月に厚労省より発令された「精神障害の労災認定基準」に当てはめて考えると、診断書の出る直前の出来事は「利用者の誤嚥事故と責任を問われた(心理的負荷「中」)」ですが、心理的負荷「中」+時間外労働月100時間=「強」となりますので、(参考:厚生労働省 精神障害の労災認定)この事例は本人が労災申請をすることで認定される可能性はかなり高いものと言えます。さらに、労災は国や行政と本人との問題なのですが、実はこの事例には事業所に影響を及ぼす内容が含まれています。それは、2回目の休職を申請した際に上司から伝えられた事実上の解雇通告です。Aさんは8年勤務していてこの事業所の就業規則上休職期間は1年6ヶ月でした。休職期間満了にも1年以上残されており、病気の前に長時間労働などが重なっており労災認定の可能性も高いということからすると、労災認定されれば解雇はできませんので判例に基づいて考えられることは、解雇の無効とそれまでの賃金の支払いなど事業所にとっては、かなり厳しいものになることが予測できます。

 では、そもそもどのような予防策が考えられたのか検討してみましょう。Aさんの2回目の休職申請の時点では、焦ることなくAさんには、次回の復職までの間は主治医や産業医、そして外部の専門機関と連携を取りながら、しっかりと休養するように指示すること、そして休職期間が1年6ヶ月であること、復職については事業所が最終判断をするので、主治医の診断書が提出されてから復職プログラム等を検討して、最終的な判断をしていくなどを伝えます。これは1回目の休職の時も同様の対応をすることが必要です。(参考:厚生労働省 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き)
 そして、そもそも必要なメンタルヘルス対策は、恒常的な労働環境の悪化など「あってはいけないことの除去」と早期発見・早期対応です。ここではAさんの変化に早く気づくことができていれば、事故の発生も防ぐことができた可能性も高く、リスクマネジメントの側面からも重要な観点です。また、事故後の周囲の個人責任追及型の対応や一人に問題を抱え込ませる職場環境は不調者の大量発生につながりますので、職場のサポート体制づくりやコミュニケーションスキルの向上など上司のスキルアップや職場全体で考え、役割分担とサポート体制の構築などを優先的に進めることも必要です。
 いずれにしても、適切なメンタルヘルス対策が、訴訟や社会的信用低下などへのリスク対策観点からも大変重要なことが理解いただけると思います。基本的にあってはならない事の除去に始まり、適切な不調者対応、そして職場環境整備は組織的な対応として決して怠ることなく、最優先課題として取り組まなければならない時代になったということを再度認識してください。

(監修:アイエムエフ研究センター)