オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その59.(事例にみるメンタルヘルス)

2014年12月02日

 ~メンタルヘルス・予防とコストパフォーマンス~

 これまでのコラムで、不調者対応について判例なども用いながら組織運営上のリスクとして、トップの意識改革の必要性を促してきました。日本における労働者への安全配慮義務や業務起因性の観点から、メンタルヘルス不調からの回復等(メンタルケア)を支援するものが中心となっていますが、今回は「遅まきながら早期発見と発症予防につなげた事例」をご紹介します。

 グループホームを運営するS社では、2つのグループホームに加え、施設に付帯した2つの訪問介護事業所を開設しました。本部開設責任者のAさんとグループホーム長のBさん・Cさんは、人材不足に頭を痛める日々が続きました。BさんCさんとも会社の期待通りに業績を伸ばしてきましたが、実は数年前に2つの施設で一度に7名もの職員が辞めていきました。当時はまだ募集をすればそれなりに職員は集まっていたのですが、最近では募集を繰り返しても職員は一向に集まりません。それどころか、介護福祉士などの有資格者に関しては看護師さながらに他事業所との奪い合いとなることが多く、仕方なく人材バンクや派遣会社に依頼することもしばしば続いていました。
 ある日、AさんBさんCさんの3人で対策を考える食事会兼打ち合せ会を開きました。BさんCさんとも、経営陣に対して「業績が良い時にはチヤホヤするくせに、業績が悪化し始めると叱るだけで何も協力してくれない・・・」と愚痴をこぼしているだけでした。
そこで、Aさんが数年前の出来事を思い出してほしいと話し始めます。「数年前に、お二人は確かに飛ぶ鳥を落とす勢いで頑張って業績を上げていました。でも、その時に開設当初に揃えた職員の多くが入れ替わっています。今考えればあの時の職員の方が今の職員よりも使える職員だったかもしれない。当時は『リーダーの方針について来れない者は去っても仕方ない』というスタンスだったようだ。もっと部下の話を聞くマネジメントをしてみたらどうだろう」
 こんな会話が続く中、BさんCさんは反省し始めました。「確かに、業績を挙げるために一所懸命他の事業者さんや行政に顔を出して、利用者をたくさん集めたね。そこには介護職としての使命感も当然あったけど、業績を挙げてみせようとして無理な受け方もしていた気がする。あの時、辞めていった職員の誰もが仕事量やその内容の困難さを何度も私に訴えてきたけれど、私自身が根性と気合で乗り切ってきたタイプなので、そこでも根性と気合を解決策の中心に据えてきたかもしれない」
 この後、3人で今までの様々な話をしていると、辞めていった職員が、ある日突然辞めたのではなく、何か出来事があるたびにアピールがあったり、職員自身の対応にも変化が生じたり、勤務状況や勤怠面でも変化が生じていたことに気づいたのでした。

 S社では、3名の訴えを聞き入れて施設責任者の定期的な研修とともに情報共有のための機会を増やし、人材マネジメントや心身の健康面からの管理者マネジメント、職場のコミュニケーションを適切に活性化するためのスキル、そして管理者自身の健康管理に関することにも重点を置くようになりました。その効果もあってか、それまで年率で25%と高かった離職率が5%に落ち着くようになりました。プラスの費用として敬遠されがちな研修やメンタルヘルス対策により、1人あたり50万とも言われている募集コストを大幅に圧縮でき、かつ業績も職員の意欲も向上したという事例です。

(監修:アイエムエフ研究センター)