オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「介護現場のストレスケア」その60.(事例にみるメンタルヘルス)

2015年01月10日

              ~非正規職員や年長の部下との関係~

 一般的に、介護事業所では比較的女性職員が男性職員よりも多く、また正規職員ばかりではなく有期契約や定時契約などの非常勤職員が混在しています。また、職種も多様であり資格者でも役割がずいぶん異なります。その環境下でベテランの先輩職員を部下に持つこととなる初級管理者も珍しくありません。実際のケースとしてAさん(30代後半、女性)は、まさにその典型的な管理者です。男女ともに、自分より年上の職員が多く所属するデイサービスの責任者となりました。Aさんは今までさまざまな現場で優秀な職員であるという評価をされ、人一倍明るく、まじめな性格ですべての職員から慕われていました。そんなAさんですから、年上の職員に対して指示を出す時はもちろん、責任者として強く注意をするような場面でも丁寧に敬語を使うことを心掛けていました。しかしながら、半年以上が経過しても部下の職員たちには遠慮があり、コミュニケーションがうまくとれませんでした。人間関係を円滑にすることで職場の雰囲気を良くしたいと思っているのですが、仕事に追われる中では話し合う時間も必要最低限しかとれず、いつも悩んでいました。

 さて、このような状況は皆様の周りで当然にあるものと思います。では、皆様はこのような悩みを抱える有能な管理者に対してどのように対応しますか?「そんな状況は当事業所にはない」「管理者なのだから自分で解決すべき」「そもそも介護事業所としては当然の環境なので問題はない」「管理者としての資質の問題」等々のご意見もあることでしょう。まさに、そこが落とし穴です。この課題で最も重要なことは、管理者の単なるスキルの問題ましてや資質の問題として考えないことです。管理者への教育や訓練だけではなく、職場の環境整備に組織として当たり前に取り組むことが必要です。例えばこのような課題を抱えた管理者に対しては、組織として次のような機会を持ちます。まず、自分の現在の状況をできる限り客観的に捉えさせ(調査、第三者機関の活用、他の管理者との情報共有や組織内での話し合いなど)、管理者として自分の「強み」や「弱み」また、仕事を進めていくうえでの「支え」と「妨げ」などを整理します。
 そこでは「年上」「定時職員」というキーワードが顕在化するはずです。その際には、誰もが組織の一員ですので、「年令」や「性格」などの条件(個人的側面)ばかりではなく、役割や責任の範囲など(組織的な側面)に関して考慮するように組織としてアドバイスします。そうなると管理者は「年上の部下」という発想をすることが「弱み」や「妨げ」になっていると気付きますので、組織の構成の問題だから仕方ないという考えにはならずに、組織における年上の職員は「上司と部下=上下関係ではない」という考えに立つことが可能になります。つまり、両者の間にはこの組織をまとめるために「指示を出す人」と実際に動いて「成果を出す人」というポジションの相違があるだけということに気づき。それぞれの強みを生かした配置と考えれば、誰もが立場は同等であるという姿勢で臨めますので、指示や指導をする際の戸惑いは軽減されるはずです。具体的な対話としては『○○さんは送迎の手配と確認をお願いします。何か問題が見つかった時には、すぐに私に知らせてください。その際の調整などは私が責任を持ってやります』このような気持ちで接することで、組織内では同等の立場のプロ同士ですから円滑に業務が進むはずです。ただし、同等な立場といえども雇用形態が異なりますので、担当業務の量や範囲をあまり広げることはできません。そこで業務を任せる際には本人が持っている強みに着目して、それを最大限生かせることを最優先することも必要です。また、当然ですが人生の先輩として敬意を払うことが必要です。そこにはよくみられるような形式的な対応(言語のみの丁寧さ)は逆効果です。単に敬語を使うということではなく仕事でもプライベートでも、人生の先輩として気持ち・態度で敬意を払うことが大切です。

さて、もう一つのキーワードである「定時職員」に関しても少し考えてみましょう。一般的には、定時職員というと組織の理念やビジョン、ミッションに惹かれてその職場を選択していることは稀かもしれません。時給や勤務条件、業務内容で選択することが多いはずです。しかし、介護事業の場合には「介護」という仕事への使命感志をもっていることが一般的ですので、そこには組織の理念やビジョンにも大いに興味を持って働いている方々も多いはずです。いずれにしても組織の理念やその人が仕事で達成したい目標によって動いてもらうのではなく、自分の仕事に対する「やりがい」を持てるように指導・指示することが必要です。そのためには、仕事の全体像とその人の位置づけを明確に説明することで、本人に「自分の必要性」を強く意識してもらうことです。そして、本人を取り巻く人間との関係性や業務の全体像とミッションをわかりやすく伝えることです。さらに、ある程度の目標をクリアしてもらう場合には、コミュニケーションを十分にとる必要が出てくるはずですが、その場合は私生活や性格の話題などに入り込むのではなく、あくまで「仕事ぶりに着目した」声掛けをすることが良好な職場のコミュニケーションにつながります。
 このように、組織的な側面として職場環境整備に関してのフォローをすることで、円滑なコミュニケーションとともに組織の生産性の向上(サービスの質の向上)が図れます。さらに、その職場環境こそが職員のメンタルヘルスの良好な状態を作り上げていく基盤であることにも気づくはずです。

(監修:アイエムエフ研究センター)