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「介護現場のストレスケア」その62.(介護現場におけるメンタルヘルス対策への理解)

2015年03月08日

 これまで、本シリーズを通して「介護現場におけるメンタルヘルス対策の必要性とその手法」について解説をしてきました。介護の現場で“ストレス”や“メンタル”という言葉が頻繁に使われ始めてから、ここ10年で介護経営の課題の一つに認知されるようになりました。日本の産業全体で見ても、メンタルヘルスの問題は労災認定をその例として増加の一途をたどりつつあります。
実際に、介護事業所のサービスの質の維持・向上には欠かせない施策の一つと位置付けて、継続した取組みをしている事業所も増えてきました。また、地域の社会福祉協議会等でも、管理者・リーダー層に向けた研修項目にメンタルヘルスを必須として取り入れるケースも増えています。いずれにせよ、今後さらに超高齢社会は進む中で、その中心的な事業として介護事業が発展するためには、メンタルヘルス対策が重要度を増すでしょう。

 メンタルヘルス対策の意義を再確認してみると、まず職員の健康と安全の確保の観点、次に労働損失の抑制の観点、そして訴訟や社会的信用低下等へのリスク・マネジメントの観点、最後に組織の社会的責任(CSR)の観点という4つの側面があります。この多面的な意義を管理者が認識しておくことは大切な経営・運営のポイントです。

 介護の仕事=ヒューマン・サービスの仕事は、そこに従事する人によって大きく変わることは認識されています。良質なヒューマン・サービスには、技術や知識は当たり前に持っていなければならないもの『必要条件』です。よって、技術や知識は大変重要視され研修する機会も多く準備されています。一方、良質なヒューマン・サービスにはもうひとつ大切な条件があります。それが職場の人間関係です。これは技術や知識のように必要条件ではなく、それがあることによってサービスの質がより一層向上するという『十分条件』と言われるものです。実は、これがあることで職員のストレスや負担は軽減されることになりますので、当然のことながら利用者へのサービスは向上すると考えられています。ところが、必要条件を満たす研修はそれほど準備されていない。サービスの質の向上につながるこのような研修や取組みが必要不可欠となることは誰もが理解できる反面、まだまだ実施されているケースは多いとは言えません。

 そこで、この取組みや活動ができないまたは機能しなかった時のマイナス面をお話ししておきます。それは、組織運営上のリスクと組織の社会的責任を観点としたものです。職員の「安全配慮」を考える際には、次のように認識を変えていただきたい。今までの「職場の安全」は物理的な安全を指していたが、現在では心身の健康に至る職場環境を含めた「職場の安全」と捉えられていること。ですから職場の人間関係が良好でない場合には、ストレスが増大してストレス性疾患やメンタルヘルス不調に陥るので、職場環境整備という活動は事業者の適切な安全配慮であることを理解していただきたいのです。また、この配慮は離職や不調による欠勤または休職などにも早期発見・早期対応のできる土壌づくりには欠かせません。職場の人間関係が良好で常に職場内で職員同士が相互に協力する体制ができていれば、職員の変化にもいち早く気づく環境が生まれます。当然、こうなると労働損失の抑制にもつながりますし、その延長線上にある、訴訟や社会的な信用の低下を防止することにもつながると認識していただきたいのです。
労働争議以外にも、事業者としてはその他の社会的信用の低下を招く事案を抱えています。例えば、虐待などの事件の際、職員の性格や非人間的行動などだけが取りざたされると、これは今後も同様の事件が再発する可能性が高いと感じてしまいます。もし、職場の人間関係が良好で職員間の情報共有や協力体制が整っていたと仮定すると、不適切な行動が発生する前に、何らかの変化を誰かが捉えて職場全体で対処しようとする等の職場の適切な行動が生まれるのではないでしょうか。事業所内外に向けた組織の社会的責任の一端も、メンタルヘルスの取組みによって前進することも理解しておいてほしいものです。

 介護現場の職員の皆様が安心して働ける職場づくりと、介護事業の発展を心よりお祈り申し上げ、本シリーズは一旦終了とさせていただきます。