オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「お年寄りのこころ学」その5

2015年08月14日

■心配しないで ~正常なこころの変化~
 70歳代を超える、もの忘れが増えてくることがあります。たびたびそんな様子をみると、「認知症になったのでは...?」と不安になりがちです。でも、もの忘れには加齢による「正常な範囲のもの忘れ」と病気による「病的なもの忘れ」があります。「正常な範囲のもの忘れ」は自然な老化現象なので心配はありません。ところが、正常な範囲なのに家族が「認知症になった」とか「異常だ」とか連発すると、お年寄りは自分に自信を無くして、活発に行動する気力を失ってしまうことがあります。「どうして忘れるの」と怒ることで、家族や他者との関係がぎくしゃくしていくことも多いでしょう。
 介護者は「正常な範囲のもの忘れ」なのか「病的なもの忘れ」なのかをしっかり観察することが大切です。病気なら専門医の受診が必要になりますが、老化によるものなら、家族や介護者のちょっとした対応で、「もの忘れ」を減らしたり、「もの忘れ」からくるいらだちや不安を和らげることもできます。

○ありがちな会話例 「もの忘れが頻繁だけど認知症になったの?」
 70歳代くらいになると、周りの人間が「あれつ?」と思うようなことが時々起こります。
「うちの親、なんだか今までと違ってきたな」と感じることに遭遇することがあるかもしれません。おとうさんやおかあさんが、ご自身のメガネや本を「どこ、いったのかな」と、家の中をうろうろ探している姿を見かけませんか。一度ならず二度、三度とこういう場面を見ると、家族は「もしかして、認知症になったんじゃないかしら」と不安になります。
 あるいは、会話の中で「あれ、またその話?」と思わされるようなことがありませんか。
このあいだ聞いたばかりの話を、まるで初めてのように話し始めるおとうさん、おかあさん。同じ話を延々と聞かされることも少なくありません。用事があり忙しいときであれば、「もう、いいかげんにしてよ」と途中で怒鳴りたくなることでしょう。
 「いよいよ、認知症になったのか...」。子どもは今後のことを考え、途方に暮れます。
 けれども、ちょっとしたもの忘れや同じことを繰り返し話す、という行為は必ずしも「認知症の兆候」とは限らないのです。「もの忘れ」には正常に年を重ねていく経過で起こるものと、病気から起こるものがあります。つまり病気ではなくても、もの忘れが増えたり、同じことを何度も話したりするようなことはいくらでも起こりえることなのです。
 おそらく若い世代も、70歳代ころになれば、同じようにめがねや本を探して家の中をうろうろしていることでしょう。
 「認知症になったんじゃないの」と子が親に対し罵声を浴びせることは何の解決にもなりません。家族が行うべきことは、怒鳴ったり責めたりすることではなく、どのような状況で「もの忘れ」が起こっているのか、注意深く親の様子を観察することです。意外だと思われるかもしれませんが、もの忘れに一番不安を感じ、いらいらしているのはお年寄り本人です。ですから、どうかやさしい気持ちで接してください。
 その上で、何だかいつもと様子が違うと気になるようなら、早めに老年神経内科や老年精神科などの専門医を受診して相談してみてください。たとえば、今さっきまで電話で話していたことを忘れて、何度も電話をかけなおしてみたり、行きなれたスーパーマーケットから帰ってくるのに、帰り道に戸惑うようなら注意が必要です。

○ありがちな行為 「財布が無いよ。誰か持って行ったの?」
 このようなことがあると、家庭のなかで次のような光景が繰り広げられているのでしょう。
母「ここに入れていた私の財布を知らない?」
子「また...? 知らないわよ...、自分で他のところに置いたんじゃないの」

 と少しあきれがちに返答。

 あなたの□調におかあさんは、むっとしたようです。
母「何言っているの。私は、財布はいつもこの引出しに片付けるのよ」

 やれやれと思っているあなたの視線の先、台所のテーブルの上におかあさんの財布が見えました。

子「ここにあるわよ。まったく忘れっぽいんだから。認知症になったんじゃない?」

 あなたは、おかあさんに対して冷たい言葉をあびせます。おかあさんは娘にばかにされたように感じたのでしょう。機嫌の悪い声でひと言。

母「何言っているのよ、私が置いたんじゃないわよ。本当はあなたでしょ...」

 ごく日常的な親子のひとこまですが、これでは親も子もストレスがたまります。売り言葉に買い言葉の世界に入り、親子けんかに発展します。

 では、こういった場合どのように対処すればいいのでしょう。

 70歳代という年齢であれば、もの忘れが増えることはごくあたり前のことだと子は認識しましょう。そうすれば、おのずと対応は変わりますし、互いにいらぬストレスをためることは減るでしょう。次のように対話ができるといいですね。工夫の仕方で、親子ともストレスも軽くなるはずです。

母「ここに入れていた私の財布を知らない?」
子「少し待って。今、わたしも探すから」
母「いつもここにしか置かないのにねえ」
子「あっ、台所のテーブルの上にあったわよ。私もよく、置いたところを忘れてしまうのよね」
 「やっぱり、私たち親子って似たもの同志ね(笑い)」

 親子とも、笑顔で一件落着です。このような相手の世界に自分が入っていく対話は「物忘れによる場合」でも、仮に「認知症による場合」でも有効です。認知症の場合、頭からの否定は『感情を害して敵対関係を作る』ことにつながるからです。

(監修:アイエムエフ研究センター)