オールライフマガジンALL LIFE MAGAZINE

「お年寄りのこころ学」その13

2016年04月06日

 前回は、在宅介護に関しての家族の役割や疑問について触れましたが、今回は認知症高齢者の介護と家族の監督責任について、3月に最高裁判決が下った「認知症高齢者の徘徊による事故(損害賠償請求)」という具体的事例について、家族の監督責任と介護事業者の監督責任について触れたいと思います。

■訴訟事故
 2007年、重度アルツハイマー型認知症に罹患していた男性の高齢者が、家を抜け出して徘徊中、愛知県のJR某駅にあった無施錠のフェンスを乗り越え線路に侵入、列車にはねられ死亡した。JR東海は、この事故によって生じた振替輸送等の費用相当の約720万円の損害賠償請求訴訟を起こした。前提は当該男性に責任能力が無く、家族の監督義務者としての損害賠償責任(民法714条)を問うたものである。

■訴訟経過
 第一審は当該男性の妻と一番面倒を見ていた別居の長男に対して監督責任義務違反を認めて、請求額全額の支払いを命じた。
 第二審は別居の長男の責任を否定し、妻のみの責任を認め、半額の約360万円の支払いを命じた。

■最高裁判決(逆転判決)
 最高裁はJR東海の訴えを全面的に退けて、JR東海が敗訴した。今回のケースは妻も要介護度1であり、「家族=監督義務責任という構図は自動的には当てはまらない」「同居の有無、日常の関わり合いの程度、財産管理の程度、介護の状況などを総合的に判断して監督義務責任の有無を判定する」とした。

■判決の受け止め方
 当該家族は「血の通った判決」と歓迎し、関係団体もおおむね歓迎の意見を発した。ただし、冷静に判決を読み取れば『常時監督可能な健康な家族であれば監督責任は大いにある』ことが確認できたとも言える。つまり、仮に健康な専業主婦の娘さんが同居していたら責任は免れないと言っているようなものである。このことは今後ますます増える認知症患者という社会問題の解決方向を示してはいない。認知症患者を社会や地域で見るという観点は無く、当該家族に監督責任能力があるか、その責任を果たしているかということに論点があるということになる。 「より親身に介護していたら他の親族よりも監督責任がより重くなる」という一種の社会問題は残ったままである。従って、認知症患者をかかえる家族にとって必ずしも朗報ではないと捉えるべきでしょう。
 まして、介護事業所となれば、施設にしても在宅にしても介護のプロであり、その能力も体制もあることから、認知症患者への管理監督責任がより明確化されたと捉えることができる。介護事業所にとっての最大のテーマは「安全」と「身体拘束しない」ことのバランスをどうとっていくかである。安全が優先することは間違いないが、そこにはご本人やご家族の意思や尊厳が絡むので、どうケアするかは今後検討を重ねる必要がある。参考までに、徘徊しないよう在宅で外側から鍵を掛けることは、身体拘束、この場合は「虐待」にあたるという判断が常識となっている。

(文責:アイエムエフ研究センター顧問 榎本三千雄)